忘れる? そんな事する訳がない。
 君が思っている以上に、俺は君を想っているのだから。


1 賞賛


「日吉ー」
「何だよ」

 振り向くと不気味な位満面の笑みを湛えた鳳が居た。げっ、とでも云いそうに日吉は露骨に嫌な顔をする。
 部活帰りの道が茜色に染まる。遠くの飛行機雲も、連立するマンションの壁も。日吉の肌も鳳の髪も。

「今日は何の日だったか知ってる?」
「…さぁな」

 無視しようとしたのか、日吉は前を向き鳳を置いてスタスタと歩いて行ってしまう。その後を1m位の間隔で鳳は連いて行く。
 尚も鳳は続ける。

「日吉の嘘つき。ホントは知ってるんでしょ」

 鳳の言葉に足を止める事無く、日吉は嘲るように云ってみせた。

「ああ、そういえばバレンタインだったな」
「半分は、ね」

 日吉が足を止める。それと同時に鳳も止まった。
 徐ろに振り向いて、日吉は鳳を見つめる。それは意を決したようにも見えた。

「ね、日吉」
「……っ…」

 怒っているのか恥じらっているのか、どちらとも取れるような難しい顔をして、日吉は自分の鞄の中に手を突っ込んだ。鳳は僅かに首を傾げる。
 日吉は鞄から無造作に取り出したのはラッピングもされていない小さな箱。それを鳳に向かってぶっきら棒ではあるが差し出した。

「遣る」
「…えっ?」

 予想外の展開に鳳は一瞬呆けた。まさかあの日吉がプレゼントを用意しているとは思わなかったからだ。失礼にも、何処か病気なのではないかと要らない心配をしてしまう。
 なかなか受け取らない鳳に日吉は内心苛々した。

「要らないなら、いい」
「い、要る!」

 慌てて2,3歩寄って、仕舞おうとする日吉の手から半ば奪うようにしてそれを受け取る。改めて日吉からのプレゼントだと思うと、喜びが止まらずつい笑みが零れた。
 その様子を見ていた日吉も、満足そうに口許を歪めた。

「おめでとう、鳳」

 ずっと箱を眺めていた鳳が顔を上げる。祝いの言葉までも貰えるとは思わず、少し吃驚した顔をするがすぐに幸せそうに微笑んだ。

「ありがとう、日吉」

 どちらともなく歩き出す。先程と違うのは、2人並んで歩いている事。
 鳳が箱を開けると、そこには数個のトリュフが入っていた。その内の1つを取って、口の中へ運ぶ。しっとりと甘いチョコレートとココアパウダーの苦みが広がる。
 視線を感じて日吉の方を見ると、じっと様子を窺うようにしていたが、鳳と目が合うなり視線を逸らしてしまった。その顔は夕映えの所為でなく、ほんのり紅潮していた。

「おいしいね、コレ」
「そ、そうか」

 日吉はそれを聞くと、嬉しそうに目を細めた。
 普段見る事の出来ない表情をする日吉に、鳳は終始心拍数を上げっぱなしにしたままだった。
 その内日吉自身が美味しく頂かれてしまうのは、そう遠くはない未来かもしれない。



2006 2/14 Saint Valentine Day
&
HAPPY BIRTHDAY!! TYOTARO OHTORI






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