こんなに胸が高まる事はない。 電話1つかけるのに、勇気が要るなんて思わなかった。 2 伝言
「留守電…?」 寮に置いていってしまったケータイの画面を見て、裕太は思わず顔を顰めた。 毎日1回は必ず兄がメールや電話を入れてくる。最初はそれが嫌だった裕太だが今では日常と化していた。というか、それが兄へ対しての諦めと妥協なのだろう。 今日はケータイを部屋に忘れていってしまったから、電話をかけてきた兄が伝言を残す事は考えられなくもない。 そう、最初は兄だと思っていた。 だが着信履歴を見ると、普段滅多に連絡を取らない人物の名前があった。『日吉若』と。 その名を目にした瞬間、裕太は途轍もない高揚感に見舞われた。 同じ都内に学校があると云っても、裕太は寮生だ。下校途中でばったり、なんて事はまずあり得ない。それに、気軽に連絡が取り合える程親しい仲ではなかった。 でもそんな日吉が。こんな特別な日に。期待をしない訳がない。 高まる鼓動を抑えきれずに伝言メモを聴いた。 『えっと…』 遠慮しがちな出だし。 日吉も自分と同じ胸の高鳴りを感じているのだろうか。そう思うと何故だか嬉しくなった。 『た、誕生日、おめでとう…』 やはりだ。日吉は自分の誕生日を知っていてくれた。 何処から?誰から? そんな事、今は関係ない。 日吉が自分の事を知っている。 ただそれだけが嬉しい。 『それで、その…、今度、どこか行かないか? 渡したいモノも、あるし…』 全身がカァッと熱くなった。ふつふつと何かが沸き立って込み上がってくる。心臓をぎゅっと掴まれたようで、息苦しい。 これは、遠回しにデートに誘われているのだろうか。裕太から見て硬派なイメージがあった日吉からは想定できなくて、何だか不思議な気分になった。 『あと…』 少し間を置いた後、日吉からの伝言はまだ続いた。 今度はどんな事を云ってくるのだろう。 『………やっぱり、いい』 ふっ、と力が抜けてしまった。何を、期待していたのだろう、自分は。 電話の向こう側がざわつく。遠くで、『何してるんだ?』と誰かが訊いている。『何でもないです』、と離れた所から日吉が答えた。 『…それじゃ、またな』 慌てたように口早にそう告げて、伝言メモは終わった。 ケータイを耳から離し、裕太は暫らく画面をぼぅっと見つめた。止まらない想いが溢れ出していく。 直ぐに電話をして声が聴きたい。否、本当は今すぐ会いに行きたい。会って、壊してしまう程抱き締めたい。 そんな事は許される筈ないのに。 もう1度、伝言メモの再生を押す。確かめるように、じっくりと聴き入る。 明日、電話をしよう。今の自分では何を云うか判らない。ちゃんと返事が出来るように。伝言の続きを聞く手段を得る為に。 ケータイを握る手に、力が入る。 窓から、オレンジの光が曠々と差していた。 2006 2/16 HAPPY BIRTHDAY!! YUUTA FUJI
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