「た…くみ…?」 夜の公園。 風が冷たく感じる。 途中まで…記憶はある。 確か…お義父さんの話をした辺りまで。 そして突然。 交代させられたんだ。 “ボク”に。 信じたくなかった。 拓海が―― 居ない、なんて。 僕は、ゆっくり歩んだ。 拓海が倒れている場所に…。 「拓、海…?」 返事はない。 ――当たり前だ。 それはもう、息をしていない。 それどころか、人間であるかどうかも判断し兼ねる。 破裂したのか。 切り刻まれたのか。 或いは。 焼かれたのか。 砕かれたのか。 その遺体は性別すらも判らない程に。 滅茶苦茶になっていた。 変死体。 そう呼ばれるに相応しい。 「ねぇ…、拓海…っ」 「嫌だよっ、起きてよぉ…っ」 「拓海っ…どして…っ」 『それはお前が自分に負けたから、だろう?』 「違う…っ、僕は…」 『お前は自分の性格と引き替えに大切な者を失う契約をした。 それに間違いはない。 そしてこうやって結果が表れた。 …それだけの事』 「違う…違うよ…っ。 僕は“命を奪う”なんて聞いていない…! その契約は間違っているっ!」 『だけど1度失ったモノは 2度と戻らない…』 「どぉして…っ、殺してしまったの…っ」 それは恋の矛盾。 君は確かに拓海を『好きだ』と云った。 しかしその心の隅では。 彼を憎み。 彼を妬み。 自分とは正反対の彼が羨ましかったのだろう。 そして契約の中の『大切な者の失い方』は。 愛憎に比例して。 その残酷さを増してゆく仕組み。 つまりは。 愛すれば愛する程。 妬みも増して。 その『大切な者』の運命さえも変えてしまうのだ。 生かすも殺すも。 最終的には亮也次第だった訳だ。 それ程に愛していた。 それ程に恨めしかった。 そしてそれを認めたくなかった。 拓海の想いも。 またそれに反応をして。 後悔したところで。 もう手遅れなのだけれども。 泣き崩れる亮也を。 ただ見下していた。 人間は愚かだと。 つくづく思う。 自分の慾を満たす為に。 後先考えず行動して。 振り返れば。 犠牲の跡が残る。 そして得たモノもやがて捨ててしまう。 これ程無駄がある生き物は人間くらいだ。 まぁ… それがボクたちにとって 良い暇潰しになるんだけどね。 亮也も消そうかと思って。 手を翳し。 そして止めた。 このまま一生。 疵を引きずりながら生きてゆく。 そんな亮也の様を見るのも。 愉しそうだと思って…。 今度は誰で遊ぼうか…? 気まぐれに『悪魔』はそう呟いた。 深い闇。 底が尽きないような。 深い深い、闇。 墜ちてゆく…。 抜け出せないと。 知っていて。 それでも足掻くのは。 なにかを。 忘れたような。 気がしたから…。 僕は1部炭になった拓海の指先の骨を拾い。 強く握り締めた。 掌で砕ける感触があったけど。 構わなかった。 君が僕のモノになったのなら――。 『悪魔』は―― この空のような人間の広い心に。 いつの間にかじわじわと伸びて拡がっていく。 茨の如く。 人間を蝕み。 惑わせる。 目には見えない。 ――落とし穴。 |
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