いつもの道。

 君と歩く帰り道。


【leave hold of your hand】


 夕日色の空の下。
 会話もなく2つの影。

 もう冬ではないのに、君は相変わらずコートを着ていて。
 寒がりでもないクセに。

 否、寒がりなのか?

「…ねぇ」
「ん?」

 話す事なんて、何もないのに。
 ない筈、なのに。

「もうすぐ、受験だね」
「あぁ」

 出てくるのはツマラナイ話題。

「勉強、しなきゃだね」
「…あぁ」

「そしたらさ、


 こうやって帰るのも、


 少なくなっちゃうね…」


 橙の空を見上げ、呟く。
 何故か君を見るのは辛く感じたから。

 なんで?
 さっきまではちゃんと見れたじゃない。

「………そんな事、ねぇだろ」

 目線を君に向けた。
 橙に染まる肌。

「いつでも側に居たいって思ったら、


 居ればいいじゃん。


 俺も、


 お前の側に居たい」

 そう云いながら君は、俺と手を繋いだ。
 冷たい体温。
 俺の熱が奪われていく。

「…熱いな、お前の手。子供体温だな」
「ばーか、てめぇの手が冷てぇんだよ」

 こんなに言葉を悪くしているのに。
 そんな優しく微笑っちゃって。
 呆れにも似た違うモノがもやもやと変な気持ちにする。

 その反面。
 君の云った事を少し、信じてみたくなった。

 生暖かい風。
 もうすぐ春だ、と囁きかけてくる。

 夕日色の空の下。
 会話もなく歩く2つの影。
 ゆっくりと歩いていく。

「………ぁ、」

 目の前にT字路が見えてきた。
 君との別れ道。
 まるで、俺たちを引き離すように。

「……じゃあな。」

 簡単に放された手。

「…待っ……!」

 咄嗟に、君の手を掴む。
 俺の体温で温まっていた。

「………なに?」

 言葉が見つからない。
 何を、焦っているのだろう俺は。

「………なんでも、ない……」

 か細く呟いて。
 君の手を掴んだ手を放す。

 その手で君は。
 俺の髪を撫でて。
 背を向けた。

 夕日色の空の下。
 離れていく1つの影。
 置いていかれる1つの影。

 段々距離を延ばしながら。
 離れていく君の背を。
 見えなくなるまで眺めて。

 寂しくなって。
 泣きそうな顔を耐えて。
 耐え切れなくて。
 溢れてきた熱いモノに。
 手を触れた。


 寂しいのは、

 君と離れるだけではない気がする。








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天の欠片