何気なく近くに君が居るだけで。

 この胸は破裂しそうだ。


【be charmed by you】


 机の上に展がる2冊のノート。
 白地に綴る黒の線。

 自分で書く字よりも。
 君の達筆なペン捌きを目で追ってしまう。


「…なに?」


 口許に笑みを湛えながらの。
 視線とぶつかった。


「な、なんでもない…」


 顔が火照って変に汗が吹き出る。
 急に恥ずかしくなって俯いた。



『この問題が解らない』
 と僕の席までやって来て。
 座っている僕の前に屈んでノートを展げた。

 僕は解説も交えながら話すけれど。
 別の問題が間違えていた事に気づいて。
 僕もまたノートを展げた。



綺麗な横顔。
白い肌。
細身の躰。
形の良い眉。
紅い唇。
柔らかな物腰。
艶やかな髪。
それを掻き揚げる癖。


 そのスベテに。
愛おしさを感じてしまって。

 君の行動を見ているだけで。
 疼く。
 僕の中の“なにか”、が。

 君に魅せられた。

 …ただ、それだけ。



「…ねぇ、なんか赤いよ?」


 触れる、細い指。
 僕の生まれつき茶色い髪に。
 そして、滑る。
 僕のソバカスのある頬に。

 驚きに震え見上げれば。
 悪戯な笑みが否応なしに映り込んで。


 目を逸らしたい程。
 熱視線。

 大半のからかいと。
 少量の労わり。

 思った以上に熱い指先が“なにか”を増幅させる。


「…じゃあな」


 ありがとう、とも述べて君は僕から離れた。

 たった1つ、机を挟んだ君の席。
 君は次の授業の準備をする。



 やはり目で追って。
 すぐに逸らし。
 溜め息。
 顔を両手で覆った。

 なんかもう。
 泣けてきちゃって。

 泣けやしないのに。
 泣けたらどれだけ楽か。



 僕はやっぱり。
 君に魅せられた。









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イルマット