泣きそうなくらい濁った空模様。
 垣間見る蒼空がいつになく綺麗で。


【Blue Sky】


 下校時刻。
 昇降口に佇む僕が居る。

 朝は少し曇っているだけで明るく、生暖かい風が心地良かった。

 なのに今は一変して薄暗く雨が降り注いでいる。
 僕は傘を持っていなかった。
 同じく傘を持っていない筈の友人は、急ぎの用がある、とか云ってこの雨の中を駆けて帰ってしまった。

 静かすぎる空間。
 ただ水の落ちる音を聴きながら、湿気の匂いとそれを含んだ空気を感じる。
 衣服が張りつくような感覚が、僕は少し好きだ。
 ぼーっ、と眺めるだけの雫たち。

 生き物なんて、此処では僕1人。
 無機質で冷たいコンクリートの壁や、金属の下駄箱が並んでいる。

 孤独、と云うのだろうか。コレは。
 不思議と寂しくはない。
 ペタッ、と足音が聴こえた。
 上履きだったから生徒だと云う事はすぐ判った。
 暇を持て余している僕はただ飽きもせず降り続く雨を見続けている。

 不意にその生徒は僕の隣りを通りすぎていった。
 その時、お互いに目が合う。
 その生徒は僕のクラスメイトだった。
 片手には折り畳み傘。

 彼は昇降口から出て傘を広げる。
 そのまま帰るのか、と思いきや、突然振り返り、僕を見た。

 どぉせ傘が無くて可哀想、とか云って嗤うつもりだろう。
 彼は、いつもそうやって人をからかうから。

 しかし、今日は違ったみたいだ。


『一緒に帰らねぇ?』

『傘、無ぇんだろ?』

『入れてやるよ』


 …彼は、人の予想を裏切ることが得意だと思う。

 差し出された、手。
 照れで、少し紅潮した頬。
 それでも瞳は真っ直ぐ僕を映していて。

 僕は、そんな彼の手を取った。

 嬉しかったのは事実。
 そっと触れた手は温かい。

 数秒間も満たない刹那の、“手を繋ぐ”と云う行動。

 外の強い風や雨は寒かったけれど。
 僕の胸だけは高鳴って。
 少しずつ、温かくなる。

 彼の黒いシンプルな傘の中で願う。

 今度は、蒼い空の下で一緒に…、てね。


『ありがとう…』








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