「…お疲れ様」

 鐘の音が聴こえる。突き刺すような寒さに張り詰めた夜空。
 透き通った風に似た声。振り返りたくはなかった。

「あと、少しだけ…だから」
「…うん」

 もうすぐ過去になる。
 もうすぐ今になる。
 ほんの刹那に対峙する。

 最後の鐘が鳴り始めた。

「…それじゃ、ね。期待…してるから」

 冬の空気に余韻が響く。
 何も聴こえない。風の音すら静まっている。

「…うん、任せといて」

 夜が明ける。
 また新しい一年が始まった。

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突発で書いてみました。
10Ch観てるんですが富川かわいいよ富川。
【080101】










































 雲に隠れた満月。
 眩しい公園の灯り。

 照らされた浅黒い肌。
 仄か朱に染まる。
 涙を湛えた瞳。
 洩れる熱帯びた吐息。

 胸に。首に。鎖骨に。
 咲き乱れる紅いシルシ。
 吸い付いて、また増やす。

 震える躰。
 篭るばかりの熱。
 絡みつく腕。
 引き寄せられる。

 何もしない。
 泣きそうな顔。
 求められるまま口吻け。
 深く交わす唇。
 混ざり合う。

 透明な架け橋。
 途切れて消える。
 切ない瞳。

 醜い姦淫に浸る者ほど、美しいものはない。

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塚視点。つまり荒井さんは可愛いという事なんだよ。
実際、こういう関係になるまで凄く時間がかかると思う。











































「…ほれ」
「何コレ」
「見りゃ分かんだろうが」

 可愛いらしく包装されたそれは、この日何度も見掛けた物だった。
 しかし、渡される相手が間違っている気がする。

「…お前」
「バカ違げぇよそんな目で見んな」

 明らかに手作り感溢れた包装に透けて、歪な形をした生チョコが見えていた。
 情報が少ないこの状況で、勘違いしても仕方がない。

「…姉貴が、お前にってさ」

 ああ、確か居たような憶えがある。
 だが一回位しか会った事のない弟の友人に渡すだろうか。渡すとしても、それを弟に頼むだろうか。

「へー、そお」
「なんで疑ってんだよ」
「別にー」
「一応女子からだぞ。素直に喜べ」

 女子って…お前の姉ちゃん、いくつだよ。
 記憶を深く辿れば、そういえば職業はパティシエンヌとか云ってなかったか。
 本職がこんなお粗末な出来で他人に渡すか?
 失敗作だとしても、わざわざこんな包装をするだろうか。

「はいはい、嬉しいですよー」
「棒読みかよ」

 …まぁ、全ては顔に出ちゃってるんだけどな。
 まったく、分かりやすい奴だ。

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何か降りてきたよー。
実際こんな事してたらキメェだけだな。
ファンタジーだから気にしない。
【080214】










































 君の元へ行く理由は、もう無くなったのだ。

「今度はいつ、ウチに来る?」

 意地が悪そうにそう訊く。
 放課後の生徒会室は傾いた西日に包まれていた。何ら特別でもない風景。だが今日で見納めだ。
 随分早いが、会長の座を降りるときが来た。――これまでの体制が崩れた瞬間だった。
 恨めしくも憎らしくもなかった。それが生徒たちの総意なら、退く他ない。
 書類の整理の手は止めず、ちらりと扉の前に居る君を一瞥する。目が合って、微笑まれる。すぐに視線を外した。

「…用もないのに行く訳ないだろう」

 音もなく近づかれる。無視するように書類を纏めて束にした。
 机の向こうから見つめてくる瞳。何もかもを見透かすようなそれが堪らなく嫌いで、顔は上げない。

「修、」

 隣に立たれた。顎に添えられた手に促されて、見上げる。とうとう視線がかち合った。
 無感動に投げかける。何も読み取らせないように。

「用ならあるだろ」

 柔らかい声。鼻で嗤われた気がした。
 腹を立てる間もなく、唇を掠める。手慣れた鮮やかな口吻け。君から与えられる物は要らない物ばかりだ。

「俺に、会いに来るって用がさ」

 ――だから、嫌いだ。胸の内を見透かされたようで。
 もう、君の元へ行く口実は無いのに。

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実は版権です。『ナオミ』というマンガのアキラ×修なんですが
古すぎて誰も分かんないだろうなぁ。
【080521】











































「………っ!」
 噛み千切られそうな痛みに身を捩った。
 力任せに引き離されて、きょとんとしている和谷が目に入った。その様子に少し戸惑う。
 下唇がヒリヒリと腫れぼったく不自然な熱を持つ。舐めると切れていたらしく、唾液が沁みて鋭く痛んだ。

「…ゴメン」

 片手で乱暴に髪を乱し、思い詰めたように瞳を伏せられる。

「平気だよ。…何かあったの?」

 取り繕うように話しかける。
 腹立たしさは感じなかった。ただ、疑問に思っただけだ。
 あんなに優しく、労わるように触れてくるのに。

「………」

 縋る、色素の薄い瞳。
 喉が鳴るようだった。

「…それが、」
「え?」

 触れられる。
 熱を持った唇。
 形をなぞられる。
 傷を確かめるように。
 血が滑る。
 上昇していく体温。
 紅潮する。

「美味しそうだったから」

 熟れて落ちる果実のような、芳しい香りと鮮やかな色を纏わせて。

「知ってる? 伊角さん。
 キスって、『食べたいほど好き』って意味なんだ」

 甘えるように首に腕を絡ませてきた。真っ直ぐ見つめてくる瞳に、不安な色はない。薄く笑んだ口許。
 妖しく光るその色は、恍惚と支配欲。
 これが本来の姿なのか、などとぼんやりと考える。不思議と受け入れたいと思っている自分が居た。
 何か紡ごうとして、言葉が詰まる。体が震えて身動きが取れない。ただ目を逸らせずに見つめていた。
 狂気とも云える瞳に、どうしようもなく惹かれている。
 ああ、逃れられない。

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ヒカ碁のワヤイス。ちょっと猟奇的に。
【080715】










































 口許を押さえる。指が唇に触れた。今更走り出す心臓と上昇していく体温。頬が熱い。こんな姿は生徒はおろか、他の職員にも見せられない。
 どうして拒めなかったのだろう。いつになく真剣な眼差しに珍しくは思ったものの、押し退けようとすれば出来た筈だ。窓側に追いやられてしまったからなんて、話にならない。
 デリカシーがないような性格に見られがちだが、その実誰よりも他人の顔色を窺っている奴だ。強引な事は決してしてこない。
 気づいていなかった訳ではない。少なからず、好意を寄せてくれている事くらいは分かっていた。そうでなければ、何故あんな事をされた事実があるにも関わらず声をかけてこれるのか。
 ――あいつは強いな。
 職権を乱用して信用を大きく裏切り多くの生徒を敵に回したのに、教師として信頼してくれている。普通ならば避けられて嫌われるのが当然なのだ。実際そういう生徒も居るし、覚悟していた事だ。
 だが奴は違う。全く正反対に向こうから近づいてきた。人の良い笑みと明るい声で。気負いしない親しげな口調で相談を持ちかけられたり、教科の質問をしてくる。
 それが酷く辛かった。いっそ無視された方がどんなに楽だろう。
 奴と接していると、自分が如何に愚かしい事をしたのかを思い知らされる。何故もっと信じてあげられなかったのだろう。何故ちゃんと話を聞いてあげられなかったのだろう。
 あの時の自分を思い出す度に、奴の表情を思い出す度に、胸を締め付けられてきた。あの絶望の淵に立ったような蒼い顔。非情だった自分。出来る事なら消してしまいたい程の記憶。
 責めても責めたりないのに、奴の優しさが追い撃ちをかける。そんなものは要らないと突き放したかった。
 それでも接する事で少しでも奴に償えるなら、――弟に触れる事になるのなら、喜んで最後まで付き合おう。
 ――しかしだ。

『好きや。…好きなんです』
『俺…本気やから』

 反芻される告白。道を外れたと云われたのだ。仮にも教師の前で。――教師に対して。
 どうという事はない。正せばいいのだ。それが大人としてヒトとして、一番の最前策だ。思春期特有の勘違いなのだと云い聞かせればいい。
 ――だけど。嗚呼、どうすればいいのだろう。
 本当はこんな事は許されないと分かっているのに、愛される事を望んでいるのだ。自分でも驚く程、強く。
 奴の想いを罪と云うのなら、自分の方がもっと重い刑罰が必要だろう。
 最初は弟の亡霊を見ているだけだと思っていた。染めた金の髪が彷彿とさせるのだ。そんな生徒は他に居るのにも関わらず、何故か奴だけが気にかかった。
 しかし段々とそうでない事に気づき始める。あの声を聴く度、あの笑顔を見る度、心の中にいつかの懐かしい痛みを感じていた。今では目が合うだけで胸が跳ねる。
 一生徒に抱いたこの不適切な感情は、気の迷いなどでは済まされない。
 将来有望な若者に、これ以上道を外れさせる訳にはいかない。奴には全うに生きてほしいのだ。こんな所でつまずいてはいけないのだ。
 だから。…なのに。
 ――せめて性奴隷のように扱ってくれればどんなに良かっただろうか。

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花君(原作)で中津→←北浜。もっと背徳的な何かが書きたい。
【090131】