思えば、僕が好む色は黒や紺、茶系といった目立たないものや暗い色ばかりで、洋服もあまり明るい色合いのものを着ることはなかった。
 今もそれはそうだけど、『最も好きな色』と云われると、僕はきっとあの色を思い浮かべるだろう。

「石田くんの好きな色って、何?」

 呼び止められて振り向くと、見慣れたクラスメイト。片手には小冊子を広げていた。

「…色?」
「うん」

 普段から突拍子のないことを云う人だ、疑問に思わず素直に少し考える。
 真っ先に浮かぶ、空を染める色。
 紅々と燃え盛るような、夕日の色。

「オレンジ、かな」

 今目の前にいる、彼女と同じ髪の色をした人物。
 それこそが、僕の『最も好きな色』。

「そ、それって…」
「石田、何やってんだ? 帰るぞ」

 突然後ろから聞こえた声に、思わず飛び上がった。
 噂をすれば、とは云ったものだが、まだ名も口に出していないのに思い描いていた人物が出てきたんだ。

「く、黒崎」
「あぁそれ、俺にも訊いたヤツだろ」
「う、うん。…あっ!」

 そう云って彼は彼女から小冊子を取り上げた。ずっと開きっぱなしだったのだろう、その箇所だけ癖が付いている。
 その癖の付いたページを僕に見えるようにして、彼は読み上げた。

「『この心理テストで分かるのはその人が好意を持っている人のイメージカラーです』…だってよ」
「もぉ返してよぉ、黒崎くん」

 僕は顔が赤くなるのを感じた。
 こんなもので僕の気持ちが暴かれてしまったなんて。

「どうした?」

 急に覗き込まれて、また体温が上がる。
 彼の顔がまともに見られない。

「な、何でもない! ほら、帰るんだろ!」
「痛て! 押すなって! じゃ、じゃあな、井上!」
「また明日ねー!」

「………」

「オレンジ…かぁ」

「…えへへ」



 外に出て、歩き始める。
 空は陽が傾き、あの色に染まっていた。

「石田ー」
「何」
「さっき、何て答えた?」
「…い、いいだろっ、別に」

 焦る僕を余所に、何故か彼は笑っていて。
 くそ、ムカつく。

「そういう黒崎は、何て答えたんだ?」

 質問を質問で返すのは狡いけど、これ位はいいだろう。

「俺? 俺は…アオっていっておいた」
「へぇ、意外だな」
「そうか?」

 もうすぐ彼の家が見えてくる。
 遠くで彼の妹が手を振っている。

「お前に一番合う色だと思うぜ」

 逆光で彼の髪が輝く。
 ああ、僕の好きなオレンジだ。








back ground
skyword

Please don't upload my fanworks to other websites, copy and reproduce from them, publish them in fanzines without permission.