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「瀬人さんっ」
「離せ、鬱陶しい」
「む〜、構ってくれてもいいじゃない」

 背から抱きついた褐色の肌。言葉とは裏腹に、回された細い腕は振り解かれる事はなく体を密着される。
 青年は顔を顰めながら本棚から本を何冊か抜き取った。

「暇なら他を当たれ。邪魔だ」
「仕事中じゃないからいいでしょ」
「職務中でも邪魔をしてくるだろうが」

 たまの休日にゆっくり過ごそうと思った矢先の事だった。エジプト考古学者の姉を持つ少年はその来日に連いてきたらしく、暫らく滞在したいと訪ねてきた。
 しかしこれは別段珍しい事ではない。一方的に好かれている所為か、度々長期に渡って滞在される場合がある。それは専用の部屋が出来てしまう程。

「あんまりワガママ言っちゃダメだぜ? 兄サマは疲れてるんだ」

 家主の実弟が少年を嗜める。少年より幼い身で青年を助ける姿は、健気で頼もしく思わせた。青年を放さず少年はむくれる。
 だが見つめた先にある瞳が寂しげで、少し気に掛かった。すぐに逸らされてしまって、今はもう窺えないが。
 少年は青年とその実弟を交互に見遣る。そして考え込み、何かに思い当たると表情を明るくした。
 視線を感じて、実弟は其方を向いた。満面の笑みを湛える少年を訝しむ。声を出さずに動く口許に、椅子から立ち上がる。
 青年は繰り返し手にした本の中身を確認して、読んだ事のある本を棚に戻した。最早どれがどれやら憶えていない。
 不意に背に感じていた温かさが無くなる。諦めてくれたのかと思う間もなく、また抱きつかれた。
 今度は腕の位置が低い。違和感に身を捩って後ろを見る。
 そこに居たのは少年ではなく、青年の実弟だった。俯いた恥じらいに染まる頬。
 驚きに言葉も出せずにいると、ソファーに寝そべる少年が目に入った。悪戯が成功したような、嬉しそうな笑顔。
 咳払いをして、青年は実弟の頭を撫でた。そしてまた本棚に向かう。
 ――ボクにはそんな顔しないクセに。
 やはり実弟には敵わないな、と微笑って少年は寝転んだ。

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