好きで堪らないとは正にこの事。

 たった1人の愛しい君だから。


【clasp】


 風が頬を撫でてゆく。
 とても気持ち良い夏の爽やかな風。


「おい落ちるなよ、リーヤ」


 落ちても拾ってやらないぞ、としいねちゃんが云う。

 偶然。
 しいねちゃんがおつかいに行くって云うから。
 無理矢理ついてきた。


「落ちねーよ。しいねちゃん2人乗り上手いんだから」
「…それはチャチャさんをけなしてるの?」
「Σなっ!!そんな訳ないだろっ!?」


 冗談だよ、と楽しそうに微笑う。

 ああ、そうだった。
 オレはチャチャが好きなんだっけ。

 しいねちゃんのライバルなんだっけ。

 オレはチャチャもしいねちゃんも好きなのに。
 否、もしかしたらそれ以上に。
 しいねちゃんが好きなんだ。

 皆の前ではオレを嫌って。
 でもオレにしか見せない笑顔があって。

 いつからか。
 独り占めしたくなった。

 スベテを。


 ギュッ、と。
 しいねちゃんを掴んでいた手。
 腕を前に回して抱き締め直した。
 隙間を埋めた。

 決して落ちないようにではなく。
 離さないように。


「………リーヤ…?」


 あったかい。
 しいねちゃん…。

 怪訝そうに名前を呼ばれ、更にキツク抱き締めた。
 背に顔を押しつける。
 顔が緩んで仕方がないから。

 愛しいよ。
 なにもかも。



 隠す笑み。
 抱擁が甘く溶かしてゆく。
 風になびく黒。
 己の髪も服も、同じように靡くのに。
 別の風景を見ているこの感覚。

 これを『恋』と云うのなら…――。

 オレのスベテが君とは違う。
 皆のスベテも君とは違う。
 酷く当たり前なそんな考えでさえ。
 簡単に受け入れられる気がするよ。

 所詮この世は民主主義。
 多数派の意見が尊重される。

 こんな『恋』なんか認められない。

 だからどうした。
 貫き通してやる。
 “オレはしいねちゃんが好きだ!!”
 てな。


→another 【clasp】






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イルマット

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