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初代拍手お礼は文化祭用の使いまわしでした。










































 月を探して歩いていた。
 暗闇に浮かぶ銀の発光物を。

 夜空をずっと見上げていた。
 首を痛める事を気にせずに。

 星も見えない空だった。
 雲はかかっていなかった。
 街の灯は明るかった。

 どんな光にも負けない夜の支配者を探していた。
 だけど歩けど歩けど、見上げど見上げど。
 見えてこない。
 見えやしない。


『お兄さん、何をしているの?』
『“月”だよ。この地球(ほし)の周りを回っている衛星さ』
『止めておきなよ。
 もうこの地球からは“月”は見えやしない』
『いいや。見つける』


 夜空をずっと見上げていた。
 誰が咎めようとも構わずに。

 街の灯が消えていく様を見ていた。
 やがて暗闇に小さな紅い光が揺らめいた。


『お兄さん、あれは何?』
『あれは火星だよ』
『綺麗だね』
『綺麗だろう』


 月を探して歩いて。
 もし月を見つけたら。
 どうするのだろう。
 どうすればいいのだろう。
 判らない。
 忘れてしまった。


『お兄さん、ごめんなさい』
『何を謝る?』
『僕は嘘を吐きました』
『どんなだい?』
『月は見えるよ。そして今も、見えているよ』


 街の灯は消え、星達が疎らに輝きだした。
 眩いもの、消え入りそうなもの。
 何億光年も昔の光。


『君は今、嘘を吐いたね』
『ううん、嘘は吐いていないよ』
『それならば、何故“月”は見つからないんだい?
 ずっとこうして、空を見上げ続けていたのに』
『お兄さん、“月”はこの空に在るよ。
 この空の中に』


 月を探して歩いていた。
 夜空をずっと見上げていた。
 目的は昔に置いてきた。
 その為に切り捨てたものも有った。

 諦めなかった。
 そして、今も。

 暗闇を辺りを包んでいた。

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結構前に思いついたモノ。
かなり未来の話。月がどんどん離れていった結果、他の星と判らなくなった。星達に見捨てられた地球。










































 君が待っている。
 はやくはやくはやく。
 もっと速く走ってくれ両足。
 君が待っている。
 遅刻なんてカッコ悪い。

 もうすぐ黄昏が終わる。
 もうすぐ夕闇が始まる。


 白く染まった息を追い越していく。
 街の眩しい灯を駆け抜けていく。
 はやくはやくはやく。
 君に会いたいんだ。

 朱みを残した黒い空。
 一筋の流れ星。


 ふと見上げた。
 消えそうな位速く走れたら。
 君を待たせずに済むのに。

 静かな街の外れ。
 喧噪も灯も届かない2人の場所。


 君を見つける。
 整えられない呼吸は。
 走ってきたから、だけじゃない。

 君と目が合う。
 綻ぶ微笑。
 耳鳴りが痛い程煩い。

 遅くなった。
 早く来すぎたみたい。


 指に触れた君の頬は冷たくて。
 もっと早く着けたら、と謝ろうとした。
 その時に。

 ほら、また流れた。

 ふと見上げた。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。
 数えられない程の。

 頬に触れている指を外される。
 手を繋いだ。

 ちょっと赤い横顔が愛しくて。
 強く手を握り返した。

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イメージ的には一雨で書いてた。










































 馴染みのグラウンドを撫でた。
 もう此処へは立てない。
 そう思うと何だか寂しくなった。


「終わったな、俺たちの夏」
「うん、終わったね」


 君が呟き、僕も呟く。
 陽は沈み始め、冷たい風が汗ばんだ肌を冷やす。


「早かったなぁ〜」
「早かったねー」


 君は落ち込んだ真似をして。
 僕は他人事のような云い方で。
 明日も此処へ来られると思っていた。


「これからどうするよ? まだ1ヶ月残ってんだぜ」
「とりあえず課題かなー」
「バッカお前、そんなのはな、31日にまとめてやるからいいんだよ」
「それで手伝わされる僕の身にもなれ」


 冗談なのか本気なのか判らない会話。
 そんなものは長く続く筈もなく。
 ふと降りる沈黙。
 オレンジに光るグラウンドを見ていた。


「あー、夕日が目に沁みるぜー」


 独り言のような君の言葉。
 僕は何も返さなかった。返せなかった。
 ただ零れ出る嗚咽を聞いていた。


「…この後、飯行くか」


 君の方は見なかった。
 君が小さく頷いた。

 嗚咽が治まる頃には、夜の帷が降りていた。
 僕は立ち上がり、初めて君を見た。


「うっわ、顔汚っ」
「おま…もっと云い方ってもんがあるだろ」
「いいから洗ってきなよ。待っててやるから」
「お、おう…」


 水飲み場に向かう君を見送る。
 遠くで場違いに蝉が鳴いている。

 馴染みのグラウンドを撫でた。
 もう、本当に、2度と、此処へは立てないんだ。
 そう思うと無性に寂しくて。
 早く君が帰ってこないかな、と思い巡らす。

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夏の甲子園で敗退した3年生的な心情で。












































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そういえば2年位前の誕生日に貰った絵。何故ファンシーララなんだ。
描いたのは勿論同居人こと高梨涼さん。→サイトへ